●はじめに

 痔疾患とは、肛門の周りに生じた病気を総称したもので、痔核、痔瘻、裂肛などで代表されます。
日本人には、近視、虫歯等と同様非常にポピュラーな疾患で、しばしば先生方の診療の現場で遭遇されることも多いかと思われます。
 しかし、現実には恥ずかしさのため、口頭での訴えを聴かれるだけで、肛門の診察に及ぶことはないでしょう。
そこで、口頭で聴かれる症状だけからでも痔疾患の目安がある程度は付くことを知って置かれれば、今後の診療に生かせるものと思います。
 では以下の3項目のことを踏まえてから、症状をご覧下さい。

●肛門の成り立ちと構造

 肛門は、妊娠2〜3ヶ月の胎児の時期に、内胚葉性の原腸が下がって伸びてきたものと、外胚葉性の肛門部の上皮が引っ込んで来たものとが繋がり、初めて肛門が開通するのです。
そのギザギザとなった接合部分を歯状線と言います。
歯状線より口側は自律神経支配で痛みの感覚がなく、肛側は脊髄神経支配で痛みがあると言う大きな違いはそこから来るのです。
 さらに肛門は、不随意筋である内肛門括約筋と随意筋である外肛門括約筋によって取り囲まれ、肛門管を形成しています。
括約筋と直腸粘膜、肛門上皮の間に、筋繊維や結合織、そして動脈や静脈の血管が複雑に入り組んだ部分が肛門のクッションと言われる部分で、肛門を閉じる役割を果たしています。

●痔の3大疾患

1.痔核
肛門の出口付近で肛門をピタリと締めるクッションの役割を果たしている痔静脈瘤が、息む動作をくり返すことで次第に緩んで大きくなったもの。
歯状線より奥のものを内痔核、外側のものを外痔核と分けます。
日本人には、両者の合併した方が多いです。
内痔核は進行の度合いで4段階に分けられ、ひどくなれば(V〜W度)脱肛と言います。
 T度:出血だけして後は何ともない。
 U度:排便時に脱出するも、自然に戻る。
 V度:排便時に脱出して、指で戻さないと戻らない。
 W度:常に脱出したまま。

2.痔瘻
直腸粘膜と肛門上皮の境にある歯状線上の肛門小かに開口する肛門腺に感染し、肛門周囲膿瘍を生じ、やがて皮膚に開口して瘻管を形成したもの。

3.裂肛
硬い便で肛門上皮に傷が付き、くり返す内に傷が慢性化して見張り疣や肛門ポリープや肛門狭窄を伴うようになったもの。

●外用剤の使い方

 剤型によって坐薬、軟膏がありますが、坐薬は、肛門の奥の直腸下部に作用させるもので、体温で溶けますので、冷蔵庫で保存するとよく、軟膏は、肛門管及び外の肛門周囲まで作用させる目的で使用します。
 作用の点から、1)抗炎症作用の強いステロイドを含むもの、2)収斂作用による止血効果のあるビスマスを含むもの、3)その他のもの、4)鎮痛作用の強いもの、に分けて使うと便利です。
 内痔核には坐薬か挿入軟膏を、外痔核や脱肛の還納時には軟膏を使います。
 坐薬には、基剤の油脂類が便を軟化させ、排便時の便通過を容易にする潤滑油的役割が大きいため、便秘の予防や治療にも使えます。
 軟膏は、坐薬の先端部に塗布して挿入を容易にしたり、排便前に肛門管内に挿入して排便時の苦痛を和らげる効果もあります。

●痔疾患の症状

1.「出血」

真っ赤なきれいな出血があります。
赤黒い出血であれば、出血してから時間が経っているため、もっと奥の方からの出血であることはお分かりでしょう。
痔疾患は、直ぐ出口の肛門管の病気であり、出血して間もないため必ず鮮血です。
量の多少は関係有りません。
その際の痛みの有無で病気がハッキリしてきます。

○ 痛みが有れば、歯状線より肛側の病変で、裂肛が一番考えられます。
硬い便を出したとか、勢いよく出した後でとかであれば、間違い有りません。
その原因となったものが、硬便であれば、便を柔らかくすること、下痢便であれば、下痢を抑えることです。 
 対症的には、出来てしまった傷をその他の挿入軟膏や坐薬を入れて潤滑作用で保護してやる内に軽快してきます。
痛みに対しては、予め排便する前に鎮痛剤を内服させておけば、痛みを和らげることが出来、無意識に排便を我慢してしまうことも防げます。

○ 痛みが無ければ、歯状線より口側の病変で、内痔核が一番考えられます。
痔核はもともと血管の病変であり、表面に傷が付けば、容易に出血するのです。
しかも歯状線より奥ですから、痛みはありません。
初めは紙に付く程度から、ポタポタと滴ったり、走り出るような出血まであります。
原因が硬便であれば、便を軟化させることですし、飲酒後であれば、しばらく禁酒してもらいます。
 対症的には、坐薬を朝排便の有る方なら、夜寝る前に肛門内に挿入して休んで貰います。溶けた坐薬が、直腸内を油でコーティングして、たとえ朝が硬便であっても滑りを良くしてくれます。
ビスマス含有坐薬であれば、より効果的ですが、その他の坐薬でも構いません。
出血のひどいときは、硬化剤の注射で一時的に止血することも出来ます。

2.「痛み」「腫れ」

肛門は神経が敏感なところで、歯状線より肛側に病変があれば、痛むのです。
痛みもその起こり方で区別が付きます。

○ お尻を拭くと痛み、洗うとしみる時は、肛囲裂創でしょう。
大抵は、もともと肛囲湿疹があって、痒みも伴っており、ひどく掻いた後で痛くなります。
 対処法は、排便後に肛門をよく洗い、後は拭かないで、紙で水気を押し取るようにし、ステロイド含有軟膏を塗布して、とにかく掻かないことです。

○ 肛門の周りに小丘疹が散在し、やがて破れてビラン状になり、神経痛様のチクチクした痛みの時は、肛囲ヘルペスでしょう。
身体を無理したり、疲れたときに、良く起こし、再発もしばしば来します。
 対処法は、アシクロビルの内服と外用剤、VB12、鎮痛剤を処方し、身体を休養させることです。

○ 排便時に痛み、しばらく経ってまたジーンと痛みが続きやがて治まる時は、裂肛の痛みでしょう。
 対処法は、前記の通りです。

○ 急に痛みが起こり、肛門の出口に丸くて硬い腫れものを伴っているときは、血栓性外痔核の発作を起こしたものでしょう。
疲れ気味の時に、息んで便を出したとか、力仕事をしたとか、必ず切っ掛けがある筈です。
 対処法は、腫れて一日以内であれば、腫れを肛門内に押し込んでやれば、腫れが引いてしまうこともあります。
ダメなら、身体を横たえて使い捨てカイロなどで穏やかに局所を温めてやるか、入浴して身体全体を温め吸収を早めてやります。
消炎鎮痛剤や消炎酵素剤を内服させ(麻杏甘石湯の頓用も効果的)、腫れた部分にステロイド含有軟膏を塗布し、痛みが強ければ、鎮痛坐薬を挿入させます。
便秘が絡んでおれば、その改善も大切です。
腫れは、徐々に吸収され、痛みは1週間、腫れは1ヶ月位で治まるはずです。
皮膚が腫れたために急に引き延ばされ脆くなっていますので、刺激で破れることがあり、中の血栓が出てきて、この時ばかりは赤黒い出血があります。
血栓が出てしまえば、出血も徐々に治まりますので、当てガーゼだけしておいて下さい。
何度も繰り返すとか、痛みが辛いときや、出血が止まらないときは、外来で切除した方がよいでしょう。

○ 今まで時々脱出していたものが、急に腫れ上がって戻らなくなり、急に起こる激しい痛みの時は、嵌頓痔核の発作を起こしたものでしょう。
痔核のより広範な部分に血栓の塊を生じたもので、腫れはザクロのように全周に及ぶこともしばしばです。
 血栓性外痔核と同様の切っ掛けがあり、対処法もほぼ同様です。
痛みがより激しい筈ですから、鎮痛坐薬を挿入して、早めに専門医に受診させるべきです。

○ 肛門の周りが日増しに次第に痛くなり、肛門の壁がシコリのように腫れ、発熱を伴うようになったものは、肛門周囲膿瘍でしょう。
身体が弱っているときに、ひどい下痢をしたとかの後から起こってくることが多いです。
 対症的には、抗生剤の投与ですが、一刻も早く切開排膿処置をしてやる必要がありますから、専門医にご紹介下さい。
外来にて、硬膜外麻酔下に切開排膿いたします。
肛門周囲膿瘍は、やがて痔瘻になることが多く、その場合は、根治手術が必要となります。

3.「脱出」

肛門の中から、排便時に出てきて自然に戻ることから始まり、やがて指で押し込まないと入らなくなり、歩行時にも出てくるようになり、遂には常時出っぱなしとなります。
腫れや傷を伴わない限り、痛みがないのが普通です。

○ 肛門の前後に、ヒラヒラとした柔らかいタルミ様のものを気にして来られるときは、皮垂でしょう。
若い女性がよく気にしますが、年と共に成長する皮膚のタルミで、肛門の外側に出来たもので、中から脱出したものではなく、何ら病的なものではありません。

○ 裂肛を慢性的にくり返していると、その外側に成長してくるものも皮垂に似ていますが、見張り疣と言われるのもでしょう。
裂肛の治療が先決です。

○ 肛門の中から硬い太いひも状のものが出て来て痛くも何ともないのは、肛門ポリープでしょう。
歯状線口側の乳頭部が炎症を起こして繊維性に成長してきたもので、放置すると可成り巨大になることもあります。
決して悪性化することはありませんので、痛みがなければ放置して構いませんが、余りに大きくなって苦痛を伴えば、切除が必要です。
 裂肛をくり返して裂肛の口側に生じてくるのも肛門ポリープですが、その場合は排便時のくり返す痛み出血があったはずです。
裂肛の治療が必要ですが、既に慢性化しているので、肛門狭窄を伴っていることも多く、辛ければ合わせて肛門を拡げる手術が必要となるでしょう。

○ 排便時に肛門の中から膨れてきて、軟らかな赤い塊で、痛みはなく、押すと戻ってしまい後は何ともないのは、U度の内痔核でしょう。
排便時に息む動作をくり返していると、肛門のクッション部が次第に緩んで外へ脱出するようになったものです。
 対処法は、息む動作つまり便秘をしないことです。夜寝る前に、肛門にその他の坐薬を挿入しておくと、溶けた油が滑剤として朝の排便を楽にしてくれますのでお勧めです。
腫れると痛みを伴うこともあり、痛みのある間はステロイド含有坐薬を入れ、消炎鎮痛剤や消炎酵素剤も併用して下さい。
痔核は血管の塊ですから、時々痛みのない出血を伴うこともありますが、その時は、出血の項目を参照下さい。
 更にくり返していると、どんどん進行して、指で押し込まないと戻らないV度から、常に出っぱなしのW度へと進んで行きます。
排便後、脱出した痔核を必ず押し戻すようにしておかないと、嵌頓発作を来すことがありますから注意して下さい。
V度以上になったら、治療は手術が必要となります。

○ 肛門の中から柔らかい滑らかな赤い膨らみが、常に垂れ下がってくる時は、直腸粘膜脱でしょう。
直腸の表面の粘膜だけが緩んで脱出するようになったもので、粘液の漏れや出血も伴います。
高齢者に多く直腸を支える支持組織が弱くなったためで、押し込んでも戻りませんので、軽ければ外来で簡単にゴム結紮で落とせますが、ひどければ痔核に準じた手術が必要になります。

○ 高齢者に多く、肛門から赤い滑らかなドーナツ状の塊が脱出して来るときは、直腸脱でしょう。
常に粘液が漏れたり、便失禁も起こし易く、下着を汚します。
 対処法は、立位で脱出し易くなりますので、臥位でそうっと押し込んでやると容易に還納できますから、そう指導して下さい。
直腸や骨盤底の支持組織が弱く肛門括約筋も弛緩しておりますので自然治癒は望みなく、外科的治療が必要です。

4.「分泌物」

肛門の締まりが悪くなったり、脱出するものがあると、粘液が漏れ出て来ますが、肛門の周りの皮膚からの分泌物もあります。

○ 痒みがあって、ひどく掻いたりした後から汁様のものが出て来て、薄い血が混じったりするのは、肛囲湿疹でしょう。
肛門の周りにシワシワが多く、肛門を不潔にしていたり、刺激物の取りすぎでも起こります。
 対処法は、刺激物を避け、排便後の肛門洗浄を勧め、後も水気を押し拭く様にして、とにかく掻かないようにすることです。

○ 肛門が腫れて痛んだ後、急に分泌物が出て腫れが治まったものの、小さなシコリが残り、後から何時までも膿様の分泌物が止まらない時は、痔瘻でしょう。
歯状線上の肛門小かが入り口となり、バイ菌が入って肛門周囲膿瘍を起こし、やがて皮膚に開口してトンネルが開通し、痔瘻が出来上がってしまったものです。
出口は塞がることはあっても、入り口が残っている限り、また噴火をくり返し、治ることはありませんから、根治には手術が必要です。

●おわりに

 痔疾患は、不適切な日常生活をくり返していると生ずる生活習慣病の一つです。
和食を中心とした食物繊維の多い食生活、便秘や下痢をして息むことのないような排便習慣、排便後には肛門洗浄を行って肛門衛生を保つ、などの生活指導を是非行っていただきたいと思います。
 ここに上げた症状は、あくまでも典型的なものであり、色々の合併例も多く、判断付かないときには、気軽にご相談下さい。


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